遺留分減殺請求と更正の請求・申告との関係
Q1)父親甲は、長男乙に大部分の財産を相続させる内容の遺言を残して亡くなりました。長男乙は、父親の遺言とおり相続したので、相続税申告と相続税納付をしました。
ところが次男丙から、遺留分減殺請求をされたので、長男乙は次男丙に遺留分を価額 弁償する方法で、和解金を支払いました。
このような場合、長男乙は、更正の請求をする必要がありますか?また、次男乙は、相続税の修正申告をすることになりますか。
A1)更正の請求や申告をしないで、相続人間だけで相続税の負担調整ができます。
本来であれば、長男乙は、次男丙に支払った遺留分相当額に対応する相続税の負担が軽減しますので、更正の請求をして、一部相続税の還付をしてもらえます。
また次男丙は、新たに遺留分の価額弁償として相当額の和解金を取得できたのですから、相続税の修正申告をすることになります。
けれども、相続人間で相続税の負担割合について調整し、申告内容とは異なる負担割合にすることができます。つまり更正の請求や申告(修正申告)をしないで、双方の相続税負担金額を考慮して、遺留分の金額を決めるという方法です。
ただし、遺留分義務者(本問の長男乙)が相続税をきちんと完納しているか(延納申請をしていないか、未納がないか)を、確認する必要があるでしょう。
相続人は、相続税について連帯納付義務があるからです。
遺留分減殺請求に伴う更正の請求などと小規模宅地の特例
Q2)父親甲は、遺言で、長男乙に、A宅地(特定居住用宅地)とB宅地(貸家建付地)を取得し、B宅地全部とA宅地面積3分の1について小規模宅地等の特例を適用して相続税申告をしました。
その後次男丙から、遺留分減殺請求がなされ、B宅地は、次男丙が取得することになりました。
この場合、あらためて長男乙は、A宅地全部を特定居住用宅地等として、更正の請求ができますか。
また次男丙は、B宅地について、小規模宅地等の特例の適用を受けられますか。
A2)A宅地全部についても、B宅地についても、小規模宅地等の特例適用が認められます。
国税庁の質疑応答例における回答では、『当初申告における、その宅地にかかる小規模宅地等の特例について、何らかの瑕疵がない場合には、その後その適用対象の選択換えをすることは許されないとされているが、この場合は、遺留分減殺請求という相続固有の後発的事由に基づいて、当所申告にかかる土地を取得できなかったものであるから、
更正の請求においてA宅地について同条を適用することを選択換えというのは相当でない。
したがって乙の小規模宅地の対象地をA宅地とする変更は、認められるし、当初申告について、小規模宅地等の対象地を選択しなかった丙についても、同様に取り扱って差し支えない』としています。
もっとも亡父甲の相続税申告における小規模宅地等の特例適用の内容は、長男乙と次男丙とで別々になっては、該特例の適用自体が認められません。乙丙で話し合い、小規模宅地等の特定適用の内容などについて、矛盾しないようにする必要があります。
代償金と価額弁償金などの課税関係
Q3)父親甲が亡くなり、相続人は、長男乙と次男丙で2人です。
1、父親甲の遺産は、自宅不動産(時価1億円・相続税評価額6000万円)と預金2000万円です。
遺産分割協議で、長男乙が自宅不動産を相続し、次男丙が預金2000万円と代償金4000万円を取得することが決まりました、この場合、相続税申告は、どうなりますか。
2、父親甲は、自宅不動産を長男乙に、預金2000万円を次男丙に相続させる内容の遺言を残していました。
長男甲は、次男乙から遺留分減殺請求をされ、価額弁償として乙に1000万円を支払いました。
この場合の課税関係は、どうなりますか。
A3)1、次男丙が取得した代償金額が2400万円に圧縮され、預金2000万円との合計4400万円が丙の相続税課税対象となり、長男乙は2400万円に圧縮された結果、3600万円が相続税の課税対象となります。
代償金の金額は通常、遺産分割時における遺産の時価を基準に定められます。代償財産というのは、本来取得すべき相続財産の代替であり、本体ならば取得したであろう相続財産の価額に基づいて交付されるものだからです。
代償分割の場合、相続税の課税財産の計算について、代償財産を受け取った相続人は、
相続(または遺贈)により取得した財産の価額と代償財産の価額の合計額に課税され、代償財産を支払った相続人は、相続(または遺贈)により取得した財産の価額から代償財産の価額を控除した額に課税されます。
しかし時価と相続税評価額とに乖離があることから、代償財産の価額をそのまま加算や減算することは相当ではありません。
そこで相続税基本通達は、代償債務の額(A)に代償分割の対象となった財産の相続開始時の価額(C)が、その財産の代償債務の額の決定の基礎となった価額(B)に閉める割合を乗じた額を相続税の課税価額の計算の基礎にするとしています。
わかりやすく言いますと、以下の計算式になります。
A(代償債務額)×C(代償の対象財産の相続開始時の価額)÷B(代償の対象財産の時価)
本問の事例を上記計算式に当てはめると、以下のようになります。
4000万円(代償債務額)×6000万円(不動産の相続税評価額)÷1億円(不動産の時価)=2400万円
したがって長男乙は、不動産(相続税評価額6000万円)を取得するにあたり払った代償金額は2400万円に圧縮され、以下の計算式により3600万円が相続税の課税対象となります。
6000万円-2400万円=3600万円
また次男丙は、預金2000万円に圧縮された代償金額2400万円の合計4400万円が、相続税の課税対象となります。
A3)2、次男丙が取得した価額弁償金額が600万円に圧縮され、預金2000万円との合計2600万円が丙の相続税課税対象となり、長男乙は価額弁償額が600万円に圧縮された結果、5400万円が相続税の課税対象となります。
遺留分減殺請求における価額弁償は通常、和解成立時または事実審口頭弁論終結時の時価を基準として、算出します。そうしますと代償金の場合と同様に、しかし時価と相続税評価額とに乖離があることから、価額弁償の金額を、取得財産にそのまま加算や減算することは相当ではありません。
そこで、代償財産の場合と同様に、以下の計算式で価額弁償の金額を圧縮します。
A(価額弁償額)×C(対象財産の相続開始時の価額)÷B(対象財産の時価)
本問の事例を上記計算式に当てはめると、以下のようになります。
1000万円(価額弁償額)×6000万円(不動産の相続税評価額)÷1億円(不動産の時価)=600万円
したがって長男乙は、不動産(相続税評価額6000万円)を取得するにあたり払った価額弁償金額は600万円に圧縮され、以下の計算式により5400万円が相続税の課税対象となります。
6000万円-600万円=5400万円
また次男丙は、預金2000万円に圧縮された代償金額600万円の合計2600万円が、相続税の課税対象となります。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
-コメント-
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