負担付贈与と譲渡所得

Q1)父親甲は、セカンドハウスに引っ越すので、自宅マンション(購入価格4000万円、現在の時価3000万円・相続税評価額1500万円)を長男乙に贈与し居住させることにしました。
自宅マンションには、父親甲の住宅ローンが800万円残っていますので、住宅ローンを父親甲の代わりに長男乙が支払う約束をしました。
贈与者甲と受贈者乙の課税関係は、どうなりますか。

A1)甲乙間の住宅ローン負担付贈与は、マンション時価と住宅ローンとの差額2200万円について、相続時精算課税制度を利用できない場合、受贈者に多額の贈与税が課税されます。

父親甲が住宅ローンの負担付で自宅マンションを長男乙に贈与するのは、いわゆる負担付贈与です。
負担付贈与においては、その贈与により取得した財産の価額から負担額を控除した金額が、受贈者の贈与税の価額になります。
負担付贈与における贈与財産の価額は、相続税評価額ではなく、贈与時における時価(通常の取引価格)で評価されます。
本問での自宅マンションは、相続税評価額の2000万円でなく、時価の3000万円が、贈与税の課税財産評価となります。
贈与した父親甲ですが、住宅ローン800万円で自宅マンションを長男乙に譲渡したものと評価されます。

したがって以下の計算により差額2200万円が贈与税の課税対象となります。
マンション時価3000万円-住宅ローン800万円=2200万円
もっとも贈与した年に父親甲が60歳以上で長男乙が20歳以上なら、2500万円までの特別控除がある相続時精算課税制度を利用すれば、贈与税が課税されません。
自宅マンション取得費(購入価格と購入経費等を加算した金額から建物減価償却分を控除した金額)を控除した金額がプラスになりますと、譲渡所得税が課税されます。
もっとも本問では、取得費が住宅ローン残額を下回る可能性がないので、譲渡所得税は生じないと考えられます。
なお、負担付贈与により譲渡所得の課税を受ける贈与者の債務金額が、資産の時価の50%未満であって、その資産の譲渡について損失が生じる場合、その譲渡損失はなかったものとみなされます。

 

貸家と負担付贈与・低額譲渡

Q2)父親甲(65歳)は、所有するアパートと敷地(相続税評価額2300万円・時価4500万円)を、賃借人から預っている敷金相当の現金150万円とともに、長女丙(30歳)に贈与しようと思っています。

(1)父親甲から長女丙に贈与した場合、贈与者甲と受贈者丙の課税関係は、どうなりますか。
(2)父親甲は、売買により、アパートと敷地を長女丙に譲渡しました。
売買代金額の内、土地代金額が低額だ、時価(近傍宅地の6地点の譲渡対価の平均額)と譲渡対価との差額は平成元年の個別通達によりみなし贈与課税の対象となると指摘され、修正申告を求められました。
どうすればよいでしょうか。

A2)小問(1)父親甲から長女丙への贈与は、負担付贈与ではなく、相続時精算課税制度を利用すれば、課税の問題は生じません。
父親甲(前所有者)が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、長女丙(新所有者)に賃貸アパートを贈与する場合、法形式上は負担付贈与に該当しますが、当該敷金返還債務に相当する現金の贈与を同時に行っている場合には、通常は当該敷金返還債務を承継させる意図が贈与者と受贈者間になく、実質的な負担がないと認定できます。

したがって、本問では、敷金相当額の現金も贈与していますので、負担付贈与には該当しないと考えられます。
父親甲から長女丙へのアパートと敷地の贈与について、相続時精算課税制度を利用できますので、該制度を利用すれば、贈与税は長女丙に課税されません。
小問(2)譲渡した土地の価額は、財産基本通達による相続税評価額より低額でなければ、みなし課税の問題は生じません。

みなし贈与としての低額譲渡は、相続税評価額を下回る価額により資産の譲渡を受けた場合に、その差額について贈与があったものとして課税するものです。
平成元年の低額譲渡に関する課税通達は、当時の相続税評価額と市場価額との間の著しい乖離を利用した租税回避行為に対処するために設けられたものです。
現在の不動産市場は、平成元年当時とは状況が異なっていますので、現在において平成元年通達を適用することには問題があると考えます。

資産譲渡が低額かどうかの判断は譲渡の対価が時価より低額をいいますが、この場合の時価とは、相続税法で定めた法定評価方法によるものは当該評価方法で評価し、それ以外の財産は財産評価基本通達により評価した価額とされています。
したがって、譲渡した土地の評価は、財産基本通達で評価する価額になりますので、この考え方を基本として、譲渡対価の基準を近傍類似の売買価額としているのは問題であると主張することが必要でしょう。

 

親子間の低額売買とみなし贈与

Q3)長男Aは、母親Bから土地を購入しました。購入金額は、所得税法の低額譲渡の基準である時価の2分の1以上の金額ですが、課税上の問題はないでしょうか。

A3)母親Bと長男Aとの売買は、相続税評価額をベースに購入価額を決めていれば、長男Aに、みなし贈与税の課税はありません。

母親Bについて、所得税の低額譲渡の問題はないですが、代金額が「土地所得費+取得経費」を上回れば、譲渡所得の申告が必要です。
売買代金額は、通常時価を基準として決定されますが、所得税法では、時価の2分の1以上の代金額による売買であるときは、低額譲渡にしないとされています。
所得税における低額譲渡とは、時価1000万円の不動産を、600万円で売買すれば600万円で売買したものと税務署に認めてもらえますが、時価1000万円の不動産を400万円で売買すれば時価1000万円で売買したものして所得税が課税されます。
したがって、本問では所得税の課税の点からは低額譲渡の問題は生じません。
もっとも母親Bが先祖代々の土地を長男Aに購入させたようなケースでは、土地取得費が低額でしょうから、譲渡益について譲渡所得税の申告が必要になります。
他方、親族間の売買については、所得税だけでなく、買主について贈与税についても考えなければなりません。
贈与税の観点から見ると、親族間の売買は相続税評価額をベースにすれば、買主(長男A)にみなし贈与としての贈与税の課税問題は生じません。

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

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