税理士法人リーガル東京は、弁護士法人リーガル東京を併設しておりますので、
遺産相続争いをしている相続人から相続税申告の依頼を請けることが、とても多いです。そのような依頼者から、よくある質問を取り上げました。
準確定申告すべき場合と申告義務者について
Q1)父親が先月亡くなりました。亡父には、年金収入のほかにアパート収入があります。亡父の相続人は、長男甲と異母姉乙です。
(1)相続人甲が調べたところ所得のあった被相続人については、亡父死亡の日から4ヶ月以内に、相続人が準確定申告をしなければならないとありました。相続人甲乙は亡父の準確定申告をしなければならないでしょうか。
(2)相続人である長男甲と異母姉乙は、亡父の遺産相続で係争していて、長男甲の準確定申告に協力してもらえそうにありません。
どうすれば良いでしょうか。
A1)「準確定申告」とは、亡くなった人に所得があるときは、その人の相続人が亡くなった人に代わって所得税の申告をすることです。
(1) 準確定申告をすべき場合と、申告しなくてもよい場合があります。
年の途中で亡くなった場合、その年の1月1日から亡くなった日までの所得金額について、相続開始を知った日から4ヶ月以内に申告と納税をすることになっています。
但し、所得があっても納税するほどの金額でない場合や既に所得税を源泉徴収されている場合等には、準確定申告をする必要はありません。
納税義務が生じない場合には、準確定申告をする義務がないということです。
(2) 相続人が個別に準確定申告ができます。
相続人が2人以上いるときは、相続人全員で準確定申告をすることが基本です。
もっとも相続人間で係争ある場合などは、相続人全員が共同して準確定申告することが困難な場合が少なくありません。その場合には、各相続人が単独で準確定申告をすることができます。
この場合、準確定申告をした相続人は、他の相続人に申告内容を通知しなければならないです。
源泉徴収等により所得税を納付済みだが、所得控除(医療費控除・各種保険料控除等)により所得税の還付を受けたい場合には、相続人全員で準確定申告をすべきですが、申告義務がないので、準確定申告をしなくてもよいケースです。税金還付額が少額の場合には、準確定申告をしない方も少なくありません。
相続税の申告義務者と申告内容について
Q2)長兄が亡くなりました。長兄は妻子がなく、両親も既に亡くなり、相続人は、次男A・長女B・次女Cの3人であり、BCは異母兄弟姉妹です。
(1)長兄の遺産は約1億円あり、相続税申告をしなければならないのですが、
遺産相続で揉めていて、一緒に相続税申告をしたくないと思っています。
相続税申告について、ABCそれぞれ別の税理士に依頼して申告することができますか。
(2)長兄は、全財産を次男Aに相続させる遺言を残していましたが、生命保険契約では「死亡保険金受取人 法定相続人に等分割合」となっていました。
長兄の全財産を相続した次男Aは、死亡保険金3千万円も次男Aが単独相続したことにして、相続税申告するのでしょうか。
A2)(1) 相続人各人が、別々の税理士に依頼して相続税申告ができます。
相続税申告は、相続人全員が一人の税理士に依頼して一緒に申告するの が、一般的であり、一つの相続税申告書に相続人全員が署名押印したものを税務署に提出します。
もっとも相続税申告は、相続人全員で申告しなければならないものではなく、別々に申告することもできます。
本問のように遺産分割で揉めているようなケースでは、相続税申告を相続人各人が別々の税理士に依頼することができます。
このように対立する相続人の場合、他の相続人が依頼した税理士では、直接の依頼人である相続人の利益になるような申告をするのではないか等、他の相続人が選んだ税理士を信用できないケースが少なくありません。
例えば、相続人の一人が自分の経営する会社の顧問税理士に相続税申告を依頼するようなケースでは、遺産相続で揉めていると、他の相続人は別の税理士に相続税申告を依頼することが多いです。
但し、別々の税理士に依頼すると、相続税の申告内容が異なってくる(課税財産の内容や金額に食い違いが生じる)ケースが出てきます。
相続税申告書の内容が違うと、税務署としては困りますので、税務調査の対象となりやすいです。
したがって、別々の税理士に依頼する場合には、税理士間で申告内容についての摺り合せ出来れば、ベストです。
しかし相続人間で課税財産の内容で対立が生じるケースもあり得ます。
例えば、預貯金が亡くなる直前に多額に引き出されていたが、その処理を巡って対立している場合など、相続人間で利益相反があるケースでは、その部分で違う内容の申告することになります。
こういう場合には、別々の税理士を依頼する意味があります。
(2)遺言で受取人変更をしていなければ、死亡保険金は、相続人全員の共同相続した内容で申告します。
死亡保険金は、遺言書で受取人の変更ができます。平成22年の保険法改正で遺言書による死亡保険金の受取人変更が可能になりました。但し、相続開始後、保険契約者の相続人が保険会社にその旨を通知する必要があります。
本問では、全財産を相続させる内容の遺言だということですが、「△△生命の死亡保険金受取人を次男Aにする」などの具体的条項が遺言書になければ、受取人の変更がされたとは解釈できないでしょう。
なぜなら、死亡保険金は、保険契約に基づいて受取人が決められるものであり、受取人固有の財産であって、遺産分割の対象となる民法上の遺産ではないと解釈されているからです。
したがって、死亡保険金を次男Aは単独では取得できないと考えられます。
死亡保険金は、民法上の相続財産(遺産)ではないですが、相続税が課税される「みなし相続財産」です。
したがって死亡保険金3千万円については、次男A・長女B・次女Cが1千万円ずつ取得した形になりますので、そのような内容で相続税申告をします。
遺留分と相続税申告について
Q3)甲が亡くなり、相続人は妻乙、長男丙、長女丁の3人です。
甲は、「全財産を妻乙に相続させる」という遺言を残していました。
甲の遺産は3億円位(そのうち不動産の相続税評価額1億円・不動産時価2億円)ありましたので、妻乙は相続税申告をしました。
(1) 妻乙は、長男丙と長女丁から、遺留分減殺請求をされました。
妻乙は、長男丙と長女丁に、価額弁償としてそれぞれ5000万円ずつ遺留分を支払いました。乙丙丁各自の相続税は、どうなりますか。
(2) 妻乙は、長男丙と長女丁に、遺留分相当額を支払うことになりました。
長男丙と長女丁は、相続税を母親である乙に負担して欲しいと考えています。そういうことができるでしょうか。
A3)(1)長男と長女は各自3750万円受け取ったとして相続税の申告・納税をし、妻乙は7500万円(2名分)を支払ったとして更正の請求をして相続税の還付を受けます。
不動産は、相続税評価額と時価(取引価格)との間に格差がありますが、遺留分は基本的に時価に基づいて算定されます。
そこで、遺留分を価額弁償した場合、次の計算式に従って,圧縮の計算をすることになります。
A:価額弁償金の額
B:価額弁償の対象となった財産の価額弁償時における時価
C:価額弁償の対象となった財産の相続税評価額
本問を計算式にあてはめてみると,
5000万円(A)×3億円(B)÷4億円(C)=3750万円
となります。
したがって,長男丙と長女丁は各人が3750万円分の遺産を相続したものとして、相続税の申告を行うことになります。
妻乙は,各自3750万円(計7500万円)を支払ったものとして,相続税の更正の請求をして相続税還付を受けることになります。
なお、相続税の更正請求を行う場合には、価額弁償金の額が決まったことを知った翌日から4か月以内にしなければいけならないです
(2)更正の請求や申告をしないで、相続人間で相続税の負担調整ができます。
妻乙は、長男丙と長女丁に支払った遺留分相当額に対応する相続税の負担が軽減しますので、更正の請求をして、一部相続税の還付をしてもらえます。
長男丙と長女丁は、新たに遺留分として相当額の財産を取得できたのですから、相続税の申告をすることになります。
もっとも相続人間で相続税の負担割合について調整し、申告内容とは異なる相続税の負担割合にすることができます。つまり更正の請求や申告(修正申告)をしないで、双方の相続税負担金額を考慮して、遺留分の金額を決めるという方法です。
ただし、遺留分義務者(本問の妻乙)が相続税をきちんと完納しているか(延納申請をしていないか、未納がないか)を、確認する必要があるでしょう。
相続人は、相続税について連帯納付義務があるからです。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
-コメント-
良い税理士は見た目だけでは解りません、当事務所は、無料相談を行っているのでご自身のお考えに合うかどうか相談ら含めて検討してみる事をお勧めいたします。