一、国税庁発表の税務調査結果について

1、国税庁が平成30年12月に公表した相続税の申告状況について

平成29年に相続税の課税対象となった被相続人は、11万1728人であり、課税価格は、被相続人1人当たり平均1億3952万円であり、被相続人1人当たりの税額は平均1807万円であるとのことです。

2、国税庁が平成30年12月に公表した相続税の調査の状況について

➀平成29年に実施された税務調査は、平成27年を中心に発生した相続を主に、税務署
等で収集した資料情報等から相続税申告額が過少であると想定される事案、相続税の申告義務があるにも関わらず無申告と想定される事案などについて実施されたようです。

➁申告漏れについては、申告漏れ課税価格は、3523億円(実地調査1件あたり平均2801
万円)であり、これによる追徴課税額(加算税を含む)は783億円(実地調査1件あたり平均623万円)となっていて、重加算税の賦課件数は1504件とのことです。
申告漏れ財産の種類としては、現金・預貯金等が1183億円で最も多くなっていて、現金・預貯金の申告漏れの増加が問題となっているようです。続いて有価証券の申告漏れが527億円、土地の申告漏れが410億円とのことです。

3、「簡易な接触」による調査状況について

「簡易な接触」とは、税務署側が、「相続税ついてのお尋ね」等の文書や電話による連絡または税務署への来所依頼による面接を実施して、申告漏れや計算誤り等がある申告を是正する調査手法であり、税務署側は積極的に「簡易な接触」の調査方法を利用しているとのことです。

 

二、税務調査の具体例について

国税庁が紹介した悪質申告漏れのケースについて、説明します。

具体例1⇒ 1億5000万円の現金を隠していたケース

税務署が相続人甲に「相続税についてのお尋ね」と題した文書で、遺産の状況を確認し
たところ、相続人甲は「相続財産は預金のみ」と回答しました。
税務署の調査で生前に預金の多額引出があることが分かり、甲の自宅などを実地調査したところ、物置の中の段ボールや袋に多額の現金を隠していたことが発覚しました。
相続人甲は、現金で隠し持っていれば税務署にバレないと考えたそうです。

(注1)税務署は、預金の入出金については、金融機関に反面調査をして怪しいとなれば、預金取引履歴を10年間(金融機関は預金履歴を通常10年間保管するため)調査します。
多額の預金を引き出して現金化し隠せばよいという安易な考えは駄目です。

(注2) 税務調査でバレた現金の隠し場所ベスト5は、以下です。
1位 被相続人や相続人の自宅金庫
2位 相続人名義の貸金庫
3位 被相続人や相続人の家の押入・クローゼット
4位 被相続人や相続人の寝室
5位 被相続人宅の納戸

 

具体例2⇒ 預金1億7000万円の申告漏れのケース

A(被相続人)は、生前A名義の預金口座から、子名義の預金口座に預金を移動しました。
Aは、自分名義の預金残高が、相続税の基礎控除額を下回るよう、多額の預金引出を行いました。相続人である子らは、預金の移動を知っていましたが、移動して子名義になった預金1億7000万円を相続財産として申告しませんでした。
税務署の調査で、このような方法は悪質な税金逃れと判断され、重加算税を含む3200万円の追徴税が課されました。

(注)預金中で、調査官が重点的に調査するのが、「名義預金」だといわれます。
被相続人の家族(配偶者・子・孫など)の名義で開設した預貯金口座でも
被相続人の管理下にあった預貯金口座の場合、名義預金(被相続人が第三者名義を借用して開設した預金であり実際の権利者は被相続人とされる預金)と認定されます。
自分名義の預金を多額に引き出し、贈与税申告もしないで、安易に家族名義にすることは、注意が必要です。

国税庁が紹介した悪質事例は、被相続人らの素人判断による拙い財産隠しの例です。
相続税の節税対策は、相続税に詳しい専門家に相談されることを、お勧めします。

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

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