売買契約完了前に買主が死亡したケース

Q1)父親甲は、丁が所有する土地を代金4000万円で購入しましたが、代金決済と所有権移転登記手続をする前に、父親甲(買主)が亡くなりました。
相続開始の8ヶ月後に父親甲の相続人(長男乙)が代金を丁に支払い、土地の所有名義が長男乙に変更されました。
父親甲が所有していた土地の相続税評価額は、金2500万円ですが、土地の売買代金額は、金4000万円です。
父親甲の遺産は、上記以外は預金600万円位だけです。
相続人は、長男乙の1名です。
この場合、長男丙の相続税は、どうなるのでしょうか。

A1)相続税申告と納付が必要です。

父親甲の相続財産を、所有土地(評価額2500万円)と預金約600万円だけだと考えると、本問では基礎控除額が3600万円ですので、遺産総額約3100万円なので、基礎控除額未満となり、相続税が課税されません。
したがって、その考えに従えば、相続税申告は必要ありません。

基礎控除額 3000万円+(600万円×相続人1名)=3600万円
遺産総額  土地2500万円+預金600万円=3100万円

これに対し、土地の売買代金債権4000万円が遺産と考えると、遺産総額は約4600万円となり、基礎控除額を超えますので、相続税申告が必要になります。

遺産総額  売買代金債権4000万円+預金600万円=4600万円

相続税法は、特別の定めがある場合を除き、相続により取得した財産の価額は時価によるとしています。
もっとも相続税の実務上、課税財産の評価は、財産評価基本通達によって行われています。
この基本通達による土地の評価額は、実勢価格(時価)を相当下回ると言われていますので、本問のようなケースでは、基本通達による評価額との不均衡が生じて問題になるのです。

本問と類似のケースについて、最高裁(昭和61年12月5日判決)は、次のように判示しています。

1、農地の売買で売買契約締結後、農業委員会の許可前に買主が死亡した相続税の課税財産は、売買契約に基づいて買主である被相続人が売主に対して取得した該農地の所有権移転請求権等の債権的権利である。

2、農地の買主の死亡により相続人が取得した当該農地の所有権移転請求権等の相続税の課税価額は、売買契約による当該農地の取得価額相当額と評価すべきである。
この最高裁の考え方からしますと、本問では父親甲の遺産は、土地の取得価額相当額となりますので、売買代金額4000万円が課税財産額ということになり、遺産総額は4600万円になりますので、相続税申告と相続税納付が必要になります。

相続税の観点からすると、土地所有者の年齢や健康状態などから、売買契約の時期を検討しなければならないケースがあることを覚えてください。

 

買主の履行遅延で売買が合意解除されたケース

Q2)母親Yが所有する農地を、Z不動産会社との間で、農地法5条の許可(転用許可)を条件とする売買契約をしました。売買代金は金5000万円です。
売買契約から1年後に、転用の県知事の許可をもらいましたが、Z不動産会社が約定日までに代金決済をしてくれませんでした。
売買契約から3年後(代金支払予定日から2年後)に母親Yが亡くなりました。
唯一の相続人である長女Xは、母親Yの死亡から1年後に、Z不動産会社との売買契約を合意解除しました。
母親Yの遺産としては、売買した所有する農地(相続税評価額は金1500万円)と預金が500万円位あるだけです。
この場合、相続人である長女Zの相続税は、どうなりますか。

A2)相続税申告の必要はありません。

母親Yの遺産を、売買代金請求権と考えると、金5000万円(代金額)と預金500万円の合計5500万円が遺産総額となります。

本問の基礎控除額は3600万円ですので、この考え方ですと相続税申告と相続税納付が必要になります。
これに対し、農地を母親Yの遺産と考えると、金1500万円(農地の評価額)と預金500万円の合計2000万円が遺産総額となりますので、基礎控除額(3600万円)未満となり、相続税は課税されず、相続税申告は必要ありません。

本問と類似のケースについて、裁決例(平成15年1月24日)があります。

この事案は、税務署側が相続税の課税財産を売買代金請求権5000万円だと主張したのに対し、国税不服審判所は、以下のように裁決しました。

「本件農地にかかる売買契約については、売主である被相続人側の責に帰すべき事由が何等無いにもかかわらず、もっぱら買主側に事情により履行が遅延し、契約締結後2年8ヶ月を経過した相続発生日においても遅延状態にあり、契約締結から4年4ヶ月、予定された契約履行の日から約3年4ヶ月、相続開始から約1年7ヶ月経過後に解除されたことからすれば、本件相続開始時点において、同契約にかかる売買代金請求権が確定的に被相続人に帰属していたとは肯定できないため、課税財産は本件農地と認めるのが相当である。」

上記裁決例の考え方にしたがえば、本問のように買主側が履行遅滞になり、そのことが原因で契約が解消されているケースでは、課税財産は、母親Yが所有する農地(評価額1500万円)ということになります。
したがって本問では、基礎控除額未満ということになり、相続税申告が必要ないということになります。

 

売主が手付金倍返しで売買を解除したケース

Q3)父親Aは、所有する土地建物を代金2億円で、不動産会社Bに売却し、手付金として1000万円を受け取りましたが、売買契約後すぐに亡くなりました。

相続人は長男Bと次男Cの2名ですが、両名は、相続開始後まもなく手付金の倍額2000万円を支払い、売買契約を解除しました。
土地建物の相続税評価額は、8000万円で、この場合の相続税申告は、どうなりますか?

A3)土地建物の評価額8000万円の方で相続税申告をします。

父親Aの遺産(課税財産)は、相続税評価額8000万円の土地建物になるのか、それとも土地建物の売買代金請求権2億円になるのかが、問題です。

本問と類似のケースについて、判例(広島地裁平成23年9月28日)があり、次のように判示しています。

1、売買契約が、解除権の行使によって解除された場合、または売買契約の成立後に生じたやむを得ない事由により解除された場合に限り、課税関係に影響を及ぼすと解釈すべき。
2、売買契約を手付け解除の条項に基づき解除した場合、解除の遡及効により、相続開始時には売買契約は存在しなかったことになるから、相続税の課税財産は、本件土地建物である。
3、仮に本件解除が合意解除であっても、売買契約後生じたやむをない事情による解除に該当するので、結論は変わらない。
4、本件土地建物の評価は、財産評価基本通達により評価すべきである。

上記判例の考え方にしたがえば、本問のように手付金倍返しによる解除権行使により
解除されたケースでは、課税財産は土地建物(評価額8000万円)ということになります。

以上のように、売買契約を完了しないで売主または買主が死亡し、相続が開始したケースにおいて、課税財産をどうみるかが問題になるケースは、少なくありません。
売買契約の完了前に相続が開始したケースについて、相続税申告に不安や疑問を持った方は、税理士法人リーガル東京に、ご相談ください。

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

-コメント-
良い税理士は見た目だけでは解りません、当事務所は、無料相談を行っているのでご自身のお考えに合うかどうか相談ら含めて検討してみる事をお勧めいたします。