(事例)
米国のカリフォルニア州で勤務していた日本人女性山田花子様(仮名)は、病気のため勤務先を休職し、闘病に専念しましたが、闘病の甲斐なく2か月後に死亡しました。
山田花子様は、夫の日本人男性山田太郎様が既に死亡し、花子様に子はいません。山田花子様 には、80歳を超える日本人の両親(川井一郎様・和子様夫婦)が日本に居住しています。
山田花子様は、カリフォルニア州に亡夫太郎から相続財産として譲り受けたコンドミニアム(分譲マンション・時価約5,000万円)を所有し、かつ金融資産としてカリフォルニア州の銀行に米国ドル建で約4,000万円を預金していました。

また、日本の銀行には約500万円の預金があります。
山田花子様は、遺言を作成していない上、リビングトラストも利用していませんでした。
カリフォルニア州のコンドミニアム等、アメリカにある相続財産の処理に困った年老いた両親川井一郎様和子様の相続について、以下のQ&Aで説明します。

Q1

本件の相続財産はほとんどが米国のカリフォルニア州にあります。
このような相続については、どの国の法律が適用されるのでしょうか。

A1

国際相続事件における相続の問題については、被相続人の本国法が準拠法として適用されます。
本件で、被相続人山田花子様は日本人ですので、被相続人の本国法は、日本法です。
したがって、本件の相続には、理論上、日本民法が適用されることになります。
しかしながら、実務上は、米国のカリフォルニア州にある財産の相続は、カリフォルニア州の法律にしたがって手続が進められる可能性が高い点に留意が必要です。

Q2

山田花子様の両親が遺産の協議をした結果、米国のカリフォルニア州のコンドミニアムについては、それぞれ2分の1ずつ相続し、花子様名義の預金については、日本の銀行にある預金も米国にある預金も父親の一郎様が引出した後、2分の1ずつ両親夫婦で相続する内容の遺産分割協議書を日本語で作成しました。
米国のカリフォルニア州にある財産を日本の遺産分割協議書に基づき分割することは、できるでしょうか。

A2

地域によっては、日本法下で作成した遺産分割協議書に従った分割を実行することができる場合もあります。
もっとも米国では、相続が開始すると、遺言がなく、リビングトラストの利用もしていない場合には、大抵の州でプロベイト(probate)という裁判所が関与する手続が必要となり、長期間相続財産が凍結されます。
カリフォルニア州でもプロベイドが必要になりますので、日本語で作成された遺産分割協議書だけでは、カリフォルニア州にある財産の相続手続はできません。
注)リビングトラストとは、被相続人がトラストという法人を作り、相続対象の財産をトラストに託し、信託した財産の遺産分割方法を書類に明記する方法です。

日本にある財産の相続と異なり、米国等の外国にある財産については日本の遺産分割協議書による相続手続(不動産の名義変更、株式等の名義書換、預金等の引出等)ができるか、事前に現地の専門家に確認することをお勧めします。

Q3

遺産分割協議書を米国のカリフォルニア州の裁判所提出し、プロベイトを経て金融資産は、両親が指定する日本の金融口座に送金することができました。
カリフォルニア州にあるコンドミニアムについては、相続手続により両親の共有名義にしましたが、高齢の両親による管理は現実的には大変難しいので、売却することを考えています。
売却に当たり留意することはありますか。

A3

米国のカリフォルニア州のコンドミニアムの名義がプロベイトを経て既に両親に移転している以上、売却手続は、現地の専門家を通じて簡単に行うことができます。
遺産分割協議書を作成する当初から本コンドミニアムを維持するつもりがないならば、本コンドミニアムについては換価分割処分すると遺産分割協議書にも明記し、カリフォルニア州のプロベイトの手続中に換価手続を現地の専門家を通じて進めてもらう方法が効率的でしょう。

Q4

山田花子様の相続税申告は、どうすればよいでしょうか。

A4

まず前記事例について相続税申告のために必要な情報を整理します。

 

被相続人花子様の住所が日本であったか米国であったかは、米国の遺産税の課税上重要なポイント

米国では、財産を残した被相続人が相続税を申告する義務を負う形になっていて、実際には相続執行代理人が被相続人に代わって納税します。

そのようなことから米国では「遺産税」と呼ばれています。本件の山田花子様が、米国の市民・居住者の場合、花子様の財産は全て遺産税の対象になります。
山田花子様が米国の非居住者なら、原則、米国内の財産だけが遺産税の対象になります。
もっとも米国では基礎控除額が大きいので、多くの場合、遺産税は非課税になるでしょう。

本件でも山田花子様に遺産税は課税されないと考えられます。
注)2016年の場合、米国市民・居住者は545万ドルまで非課税です。
非居住外国人だと6万ドル以上が課税対象ですが、日米相続条約による特例があり、IRS(アメリカ国税庁)に全世界遺産を開示することを条件に基礎控除額の拡張が認められています。

日本の相続税では、法定相続人である花子様の両親(川井一郎様・和子様)も、日本に住所があることは明確ですので、被相続人花子様の住所が米国でも、相続人である両親の日本の相続税の納税義務の範囲に影響はありません。
したがって、山田花子様の財産が基礎控除額(4200万円)を越えている以上、川井一郎様・和子様は、日本で相続税申告をしなければなりません。

➀小規模宅地の評価の特例

日本の相続税計算だけを検討課題にすると、課税遺産額に大きな影響がある点は、コンドミニアムに小規模宅地の評価減規定が適用できるかどうかです。被相続人に配偶者が無く、生計を一にする親族がいない場合、同居していない相続人が相続した被相続人の居住用宅地には、小規模宅地の評価減が適用される可能性があります。

小規模宅地の評価減の適用を受けることができるケースであっても、米国のプロベイト手続に時間を要し、遺産分割手続が相続税の申告期限までに終わらなかった場合には、相続税の申告は、小規模宅地の評価減適用前課税財産価額で申告し、遺産分割確定後に更正の請求を行います。

ただし、「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出」を提出するが必要です。

➁外国税額控除

被相続人の遺産について米国内で遺産税を負担する場合、日本での相続税の申告・納付の際には、在外財産に対する相続税額の控除の適用があります。
米国で納付した遺産税については、日米相続税条約の適用があり、税額控除の金額に計算については日米での配分調整計算によります。
本件では遺産税が課税されないので、問題にはならないでしょう。

➂所得税

相続財産を第三者に譲渡した場合には、国外財産であっても、相続人がその譲渡に関する譲渡
益を譲渡所得として申告納税する必要があります。

 

外国に財産を保有する日本人の相続について:その2

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

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特に相続分野では、相続対策・相続トラブル解決・相続税申告・相続手続処理などの相続に関わるワンストップサービスを得意としています。