(事例)

被相続人は、25年以上アメリカのハワイ州に居住する日本人田中一郎様(仮名)です。
田中一郎様の家族は、妻道子様及び1人息子太郎様です。妻子はいずれも日本国籍のみを有しており、妻道子様はハワイ州に居住し、息子太郎様は日本の大学に進学して以来10年以上日本に居住しています。
息子太郎様は、今後も日本に居住するつもりです。

一郎様の遺産としては、日本会社の株式(時価約3億円)、ハワイ州の銀行に米国ドル建で約1億円の預金、及びハワイ州にコンドミニアム(時価約2億円)があります。
田中一郎様は、ハワイ州でハワイ州の方式に従って、日本にある遺産(日本会社の株式)については、息子太郎様に相続される旨の遺言書(以下「本遺言書」といいます)を作成し、一方でハワイ州の遺産(預金とコンドミニアム)については、ハワイ州法を準拠法とする信託契約(以下「本信託契約」)を締結し、田中一郎様死亡後の受益者を妻道子様としています。
息子太郎は、亡父一郎様名義の株式を管理していた日本の証券会社に本遺言書を持参して相続手続をしようとしました。
けれども、証券会社は英語の遺言書を取り扱うのは初めてだとして手続きが遅々として進まない状況です。

相続税の対象範囲もわからず不安な息子太郎様から相談を受けました。

Q1

被相続人田中一郎様の本遺言書は、ハワイ州でハワイ州の方式に準拠して作成されています。
田中一郎様の顧問弁護士に助言を受けて作成したものであり、本遺言書はハワイ州で何らの不備はなくハワイ州法では完全に有効なものです。
もっとも、太郎様が日本の証券会社に同遺言書を提出したところ、同証券会社は、日本の民法上の遺言書しかこれまで取扱った例がないとのことで非常に戸惑っています。
本遺言書は日本では有効な遺言書と言えるのでしょうか。

A1
本遺言書は、田中一郎様が遺言を作成した場所であるアメリカのハワイ州の方式に従って適正に作成された遺言書である以上、日本でも方式上有効な遺言といえます。
日本は、1961年「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を批准し、遺言方式準拠法を制定しました。
この法律によれば、遺言の方式は、行為地法の方式に従えば有効ですので、ハワイ州で作成した本件遺言は、ハワイ州の方式に従ったものなので、有効な遺言になります。

Q2

証券会社は、とにかく日本の家庭裁判所による検認をしてくれと要請しています。

日本法に基づいて作成された遺言書の場合、公正証書遺言を除き、家庭裁判所での検認が必要だと知人から聞きました。
アメリカのハワイ州の方式に従った遺言書にも検認が必要でしょうか。
仮に検認が必要な場合、アメリカのハワイ州の裁判所でプロベイトをすべきでしょうか。
それとも日本の家庭裁判所で遺言書の検認をすることができますか。

A2
アメリカのハワイ州の裁判所又は日本の家庭裁判所のいずれでもプロベイトは可能だと思われます。
けれども本遺言書の対象財産が日本にある遺産についてのみ述べているので、日本の家庭裁判所で検認することが合理的であり、相続手続もスムーズに行くはずです。
なお本件遺言書は、ハワイ州の方式ですので、英語で書かれています。
したがって本件遺言者といっしょに日本語訳もつけて、日本の家庭裁判所に検認手続をする必要があります。
そうでないと日本の裁判所は受け付けてくれません。

Q3

亡田中一郎様の相続税申告は、どうなりますか。
事例Ⅱについても相続税申告のために必要な情報を整理します。

(1)配偶者道子の納税義務者の種類の確認

相続人である息子太郎様の現住所は日本であることは明確ですので、居住無制限納税義務者に該当します。
もう一人の相続人である配偶者道子様の現住所は、米国内ですが、国籍が日本人です。

したがって、田中一郎様がいつ志望して相続が開始したかにより、取扱いが異なります。

➀平成29年3月31日までの相続開始(田中一郎様が平成29年3月31日以前に死亡した場合)

被相続人田中一郎様または配偶者道子様のいずれかが相続開始5年以内に日本に生活の本拠として住んでいたのであれば、非居住無制限納税義務者に該当する可能性があります。

➁平成24年4月1日以降の相続開始(田中一郎様が平成29年4月1日以降に死亡した場合)

被相続人田中一郎様または配偶者道子様のいずれかが相続開始10年以内に日本に生活の本拠として住んでいたのであれば、非居住無制限納税義務者に該当する可能性があります。
非居住無制限納税義務者に該当すると、田中一郎様のハワイ州にある財産についても、日本の相続税の課税対象になります。

 

(2)相続財産

仮に、配偶者道子様が制限納税義務者であれば、配偶者道子様の取得するハワイ州の相続財産は、国外財産に該当しますので、日本における相続税の課税財産の価格に算入する必要はありません。
息子太郎様の取得する日本の証券会社に預けてある日本株式のみが日本における相続税の課税対象財産となります。
基礎控除の計算に当たっては配偶者道子様が課税相続財産を取得していない場合でも、法定相続人の数(2人)で計算します。

 

(3)信託財産の取扱い

仮に、配偶者道子様が非居住無制限納税義務者に該当する場合には、被相続人田中一郎様の死亡により取得する信託受益権について日本の相続税計算上、遺贈により取得したものとして取り扱うかどうか検討する必要があります。
また、信託財産であるハワイ州のコンドミニアムは、信託受益権の遺贈を受けた場合でも、法令の規定で、遺贈を受けた者が、その信託に係る信託財産を承継したものとみなされます。
したがって、直接所有の被相続人田中一郎様及び配偶者道子様の居住用財産であれば、小規模宅地の評価減の規定の適用が可能です。

 

(4)納税地

相続税の申告書の提出先は、原則として、財産を取得した人(相続人太郎様)の住所地を所轄する税務署に申告します。
また、配偶者道子様が非居住無制限納税義務者に該当する場合には、国税通則法に従って納税管理人を置き、納税地を定めて申告します。
但し、被相続人が、死亡の時に日本国内に生活の本拠である住所があった場合には、被相続人の住所地を納税地として、その所轄する税務署へ共同で申告書を提出することができます。
被相続人の田中一郎様は日本に住所がないので、相続人太郎様の住所地の所轄税務署に申告します。

 

(5)ハワイ州の相続税

米国では、連邦遺産税(相続税)がありますが、ハワイ州では別に遺産税(相続税)があります。
米国内において遺産総額が543万ドルを超えていた場合には連邦遺産税(相続税)がかかります。

またハワイ州では、ハワイ州の居住者、またはハワイ州の非居住者だが、米国の居住者または市民に相当する人が亡くなり、米国内の総遺産額が543万ドルを超えるときは、ハワイ州で遺産税の申告をし、遺産税を払う必要が生じます。
仮に米国で遺産税を納付するときは、日米相続税条約により、日米間で税金配分の調整ができます。

 

外国の資産を有する日本人の相続について:その1

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

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