Q.両親が所有している賃貸マンションなどについて、子が相続で取得するより生前贈与で取得した方が、節税できる場合があると聞きました。どういうことでしょうか?

 

A.親が所有している賃貸マンションや賃貸ビルなどの収益不動産からは毎年賃料収入が発生します。

これは、親の資産の蓄積につながり、消費しない限り相続税の対象相続財産(現金預金など)となって増加していくことになります。
収益力の高い不動産ほど相続財産が増えていくのです。

そこで考えられるのは、収益を生んでいるマンションやビルなどの建物だけを子が所有する方法です。
子が建物を所有することで、入居者からの家賃収入は全て子の収入に変わります。
蓄積されていく資金は親の相続財産ではなくなり、子にとっては相続税の支払原資として使えます。
そのためには、賃貸建物の所有権を子に移転さなければなりません。移転する方法としては売買と生前贈与があります。

質問で「生前贈与で節税」とは、相続時精算課税方式による生前贈与の方法で節税することだと思料いたします。
相続時精算課税方式による生前贈与は、相続発生時点においては相続財産として加算しなければなりません。

それも生前贈与時の相続税評価額によるため、建物のように評価が減少していく財産は、不利な部分もあります。
しかし、生前贈与以降の両親の所得税・住民税の節税と、相続時における納税資金が子や孫に蓄積できること、及び今後の賃料収入の全てが相続財産にならないという3つの利点を活かすことができます。

 

1.生前贈与の対象となる賃貸建物は、賃料収入が多く(収益性が高く)借金がない建物であることがベストです。

収益性のある建物を子に売買で取得させる方法もありますが、子どもに資金的な余裕がないとか、資金を借入れて返済する場合に賃料収入の範囲で賄うことが難しいケースがあります。

また、売買では、売却資金が両親の所有となるので、一時的に相続財産の価額が上昇します。
したがって、先ず相続時精算課税による生前贈与を検討される方がよいでしょう。
生前贈与の対象となる建物は、1棟のアパートやマンション、ビルです。
敷地権がある区分所有建物(例‐分譲マンション)は、建物だけを贈与の対象とすることはできません。

但し、敷地権部分の土地の時価がそれほど高くなければ、土地持分(敷地権持分)と建物部分一体での生前贈与も考えられます。

 

2.相続時精算課税方式を適用できるのは、次のような場合です。

項目内容
贈与者の要件満60歳以上の父母または祖父母
受贈者の要件満20歳以上の贈与者の子や孫である推定相続人または孫
適用対象財産種類、金額、回数いずれも制限なし
特別控除額2,500万円(累計の総額)
贈与者複数の場合は、各2,500万円
贈与税の税率2,500万円まで非課税
2500万円を超える部分に一律20%

(注) なお年齢は贈与の年の1月1日現在で計算します。

 

3.相続時精算課税・相続時精算課税(暦年課税)に関して

(1)相続時精算課税による生前贈与では、2,500万円まで贈与税が課税されずに生前贈与することができます。

貸家建物の相続税評価額は、固定資産税評価額の70%のため、固定資産税評価額が、3,570万円位までなら、贈与税の課税はありません。

3,570万円 × 70% ≒ 2,500万円

相続税課税時においては、生前贈与された建物評価額が相続財産に取り込まれますが、建物を生前贈与することによって家賃収入から得られる資金の蓄積(収益力)が子に移転していくこととなります。

(2) 相続時精算課税は、特定の贈与者だけを選択して適用するものであり、それ以外の人からの贈与については、通常とおりの暦年課税によることができます。暦年課税では、基礎控除額が110万円で毎年控除できます。

ただし、相続時精算課税で控除できる特別控除額は、すべての期間を通じて2,500
万円です。したがって、2,500万円を累計で控除してしまうと、その年分以後の控除額がなくなります。
相続時精算課税制度の適用を受ける場合は、その年の翌年の3月15日までに相続時精算課税選択届出書を、贈与税の申告書に添付して所轄税務署長に提出することとなります。

 

4.収益性のある建物を生前贈与する場合には、負担付贈与にならないように気をつけておく必要があります。

アパート・マンションやビルなどは入居者から敷金・保証金などを預かっていることが多いため、賃貸建物の贈与によって入居者の契約相手が変更になるからです。

したがって、預り敷金(または預り保証金)という債務も一緒に贈与したとなると負担付き贈与として取り扱われます。この場合は、建物の価格が相続税評価額ではなく時価となってしまいます(平元・3.29直評5・直資2-204)。

建物の時価となると建物の固定資産評価額よりも高くなり、相続時精算課税の非課税枠である2,500万円を超えるケースが出てきます。
そこで、預り敷金(または預り保証金)に見合う資金は従来の建物所有者である親から受贈者である子に別途支払っておくことが望まれます。
負担部分が消滅しますので、負担付贈与でなくなり通常の生前贈与となるからです。相続時精算課税方式のため、賃貸建物は、相続発生時に相続財産として加算されますが、子は新たな資金調達もなく、賃料収入をもらえますので、相続税の納税資金としても利用できます。

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

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