Q.高齢の父親は、経営していた同族会社に1億円以上の貸金があります。

その同族会社が1億円もの貸金を父親に返済できるかどうか分かりません。
このまま父親が亡くなると、多額の相続税がかかりそうです。
何か対策は、ありませんか。

A.(1) 相続財産は、相続発生時における債権・債務のすべてが対象となります。

中小企業や不動産所有会社などは、資金繰りが困難な時期において経営者個人から資金を調達してくるケースが多いです。
この資金は、通常は「ある時払いの催促なし」ということで会社のキャッシュフローの回転に貢献してきたといえます。

ところが、会社からみると借入債務ですが、貸している社長個人からみると貸付債権となります。つまり、相続財産としての貸付債権が存在していると
いうになります。
現状のままで父親が亡くなり相続が発生すると、この貸付債権は相続財産となり、
額面上の金額(1億円)で貸付金を評価して相続税を計算することになります。

(2)相続税が課税される財産のうち、貸付債権等の元本の価額は、次のような基準に該当した場合のみ、元本の価額に算入しなくてよいと定めています(財産評価基本通達205(1))。

➀手形交換所等において取引停止処分を受けたとき
➁会社更生手続きの開始の決定があったとき
➂民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったとき
➃特別清算の開始命令があったとき
➄破産手続開始の決定があったとき
➅業績不況のため、又はその営む事業について重大な損失を受けたため

その事業を廃止し、又は6か月以上休業しているときしたがって、回収できそうにない金1億円の貸付金のために、多額の相続税を払わないようにするには、同族会社を上記➀~➅のいずれかの事由で、廃業させる必要があります。

(3)上記の方法では、手続き的に面倒であり、会社事業を廃止させることができない場合もあります。

そこで、上記以外の方法としては、父の死亡前(相続開始前)に父に同族会社に対する貸付金を債権放棄させる方法があります。

(イ)同族会社や不動産の所有賃貸会社などの経営者は、資金繰りに当たって自ら個人の資金を会社に貸し付けているケースが数多くあります。
ただし、その資金が法律的に明確になっていないケースがあります。
すなわち会社と経営者個人との間で金銭消費貸借契約書が作成されていないケースが多いということです。
こうした場合には、まず、実際の資金の移動(金銭の貸借が行われたとみなされる日)をベースとした金銭消費貸借契約書、又は債務承認及び弁済契約書を作成しておくべきです。

大方の場合は、金利を払うこともなく元金の返済もされていませんので、金利は0%、返済期日は何年後の一括返済といった契約書になることが多いでしょう。
贈与というほど割り切っているわけでもありませんが、他人に貸したりしているという概念もないことが通常でしょう。
そのため、まず債権が間違いなく存在していることを証明するための手続の整備が必要なのです。

(ロ)同族会社に対する貸金債権を放棄することは、該会社に債務免除益を生じさせ、法人税の課税が生じうる事態になります。
そこで該会社に税法上の繰越欠損金があるか、あるいは大きな損失を生み出す含み損を抱えている資産があるかどうかを検討するべきです。
これらが存するならば、債権者が債権放棄を行っても税法上の繰越欠損金、又は新しく発生する損失金の範囲額までは、法人税の課税対象にならないのです。

一方、税法上の欠損金などがないと、債権者が債権放棄をすることで会社に債務免除益が計上されて課税されてしまいます。

(ハ)債権放棄(債務免除)の方法について債権者が、自ら債権放棄を行うことはありません。
債務者である会社が、債権者に対して会社再建のために貸付債権の放棄をお願いするというのが通常のやり方です。
会社は、臨時取締役会を開催して、「借入金の免除を依頼して承諾を得た」旨の取締役会決議をして取締役会議事録を作成しておく必要があります。

また債権者(本問では父親)から内容証明が届いて債権放棄(会社からみると債務 免除)が確定した日において、会社は取引仕訳で債務免除益を計上することになります。
本問のケースは、「債権者」が「経営者」でもあるため、会社の将来を考えて「債権者」に損をしてもらうことで会社の「経営者」をサポートするというこになります。

そこで債権者は、「貸付債権を放棄する」という趣旨の内容証明郵便を会社に郵送します。
債権放棄の承諾書や確認書のようなものでも構わないのですが、ポイントは、実際に法律的に債権が消滅したことが証明できる資料であるということです。なぜ債権放棄をしたのかという債権放棄の理由が、放棄する書面に書くのがベストですが、書かなくても債権放棄の効力は変わりません。

(二)税法上の欠損金がない場合または税法上の欠損金などが1億円よりかなり下回る場合、債権(会社からみると債務)を株式に変えるDES(デットエクイティスワップ)方式または擬似DES方式による債権の評価減を検討ことがあります。
債務の株式化です。
本来経営者個人が自ら経営する会社に資金を組み入れているのは、貸しているという意識より、会社に出資しているという意識の方が近いかもしれません。
それなら最初から会社が新株を発行して、それを引き受けるというスタイルを採ればよいのですが、増資する手続が面倒ですし、コスト(増資に対する
登録免許税など)がかかるといった理由で、とりあえず会社に貸しておくという処理を採ることがほとんどでしょう。

会社に資金的な余裕のある時期が一日でもあれば、経営者に一旦借入金を返済して、同時に、返済した資金で同額の新株を発行して経営者に引き受けて
もらうこともできるのです。

今後のことを考えて、債務を直接株式に振り替えるかという手法を採るか、確定した債権(会社からみると債務)を一旦返済し、同時に増資に応じてもらういう疑似DES方針を採るか、いずれかを採用することで、会社に対する貸金を本来の出資に修正してしまうのです。
これにより経営者からの借入債務は資本にシフトしたことになります。

(ホ)債務の株式化によって会社の資本金が大きくなると、中小企業政策や税法上のメリットが受けにくくなりがちです。そのうえ、増資に対する登録免許税も高くなります。

そのため、払込額の50%までを資本準備金(会社法445条)とすることも検討します。
またこのケースでは、第三者割当増資を債権者であった社長(本問の父親)が引き受けることとなるため、株主が社長以外に存在すれば、現状の株価を計算して何株の引き受けを行うかを計算する必要があります。

資金がないケースでは、DES方式を採用することになります。
DES方式を採っても、現在の自社株式を評価する必要があります。

また、会計上の欠損金は多いが、税法上の欠損金は期限切れで消滅しているるケースもあります。
この場合には、一旦、増資してすぐに減資する方法があります。
減資差益は資本等取引となり、資本剰余金の一部を構成します。損益取引ではありませんので、利益や損失にはなりません。

また、資本剰余金は過去の損失の累計である欠損金を償却(相殺)することができますので、会計上の欠損金を消滅させる効果を生じます。
DESによる増資の場合は、出資を受けた金銭債権の時価だけが資本金等の額を増加させることになるため(法令8①一)、債権の金額と債権の時価との差額が債務消滅益として益金になり、課税の対象になる場合もあることに注意してください。

(へ)会社に対する多額の貸付金の処理については、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

監修者

氏名(資格)

小林 幸与(税理士・弁護士)

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