1、平成30年の税制改正で、事業承継税制が、大幅に変わります。
そこで事業承継税制について、説明します。
事業承継については、上場していない株式について相続税・贈与税の納税猶予の制度があります。
(1)非上場株式(同族会社の株式等)の相続税の納税猶予とは?
経営を承継する相続人等が、承継会社の代表権をもっていた被相続人から相続又は遺贈により、該会社の株式等を取得した場合、特例非上場株式等に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、相続税申告期限までに一定の担保を提供すれば、経営を承継する相続人の死亡の日まで納税が猶予され、後に経営を承継した相続人が死亡した場合は相続税が免除される制度です。
(2)非上場株式(同族会社の株式等)の贈与税の納税猶予とは?
経営を承継する人(受贈者)が、承継会社の代表権をもっていた人(贈与者)から該会社の株式で特例対象贈与により取得した場合に、該株式に係る納税猶予分の贈与税額に相当する贈与税については、贈与税の申告期限までに一定の担保を提供した場合、贈与者の死亡の日まで納税が猶予され、後に贈与者が死亡した場合(又は、贈与者の死亡以前に承継受贈者が死亡した場合)は、贈与税が免除される制度です。
2、平成30年税制改正の説明の前に、これまでの事業承継税制について
平成25年に事業承継税制の大幅改正がなされました。主な改正点を説明します。
➀平成25年改正前は、贈与税の納税猶予を受けるためには、現経営者は贈与時に役員を退任することが要件でした。
平成25年改正により、贈与時の役員退任要件が「代表者退任要件」に改められました。また役員である贈与者が認定会社から給与の支給等を受けた場合であっても、贈与税の納税猶予の取消事由に該当しないこととされました。
➁平成25年改正前は、事業承継の納税猶予制度を利用する前に経済産業省の「事前確認」が必要でした。
平成25年改正により、平成25年4月1日以降は経済産業省の「事前確認」を受けていなくても、事業承継の納税猶予制度を利用できるようになりました。また提出書類も大幅に簡略化され、株券発行が不要となりました。
➂平成25年改正前は、雇用の8割以上を5年間毎年維持することが、要件でした。
平成25年改正により、納税猶予の取消事由となる雇用確保要件について、
雇用の8割以上を「5年間平均」で評価することに緩和されました。
➃平成25年改正前は、納税猶予の適用対象者は、現経営者の親族に限定されていました。
平成25年改正により、親族以外の人(例―経営者を支えてきた参謀である他人)が承継者となっても、株式の遺贈等を受けた場合に、納税猶予の適用が受けられるようになりました。
➄平成25年改正前は、納税猶予額の計算で、現経営者の債務・葬式費用を株式評価額から控除することになっていたため、納税猶予額が少なく算出されることが少なくありませんでした。
平成25年改正により、現経営者の債務・葬式費用を株式以外の相続財産から控除する方法になったため、株式の納税猶予をフル活用できるようになりました。
➅平成25年改正前は、納税猶予制度適用後に、資産保有会社に該当するなどして、納税猶予の打ち切りになると、納税猶予額に加え、利子税の支払いが必要でした。
平成25年改正により、事業承継期間が5年超ならば、当該5年間の利子税が免除されることになりました。また利子税が課税されるときでも、利子税の利率が年2.1%から年0.9%に引き下げられました。
参考までに、平成25年の事業承継税制の改正内容を、次の一覧表にしました。
平成25年の事業承継税制の改正内容
改正項目 | 改正前 | 改正後 | 相続 | 贈与 | 適用開始時期 | |
適用対象者の範囲 | 先代経営者の親族のみ | 親族以外も適用対象に | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
先代経営者の役員退任 | 贈与時点で退任が条件 | 代表権のない役員で残れる | ─ | ○ | 平成27年1月 | |
経済産業省の事前確認 | 原則として必須 | 不要 | ○ | ○ | 平成27年4月 | |
株券発行の上担保提供 | 原則として必須 | 一定の手続で株券発行不要 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
雇用確保要件 | 最初の5年間毎期8割確保 | 5年間通算で8割確保 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
先代経営者の給与受給 | 不可 | 可能 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
民事再生計画の認可(5年経過後) | 免除対象外 | 株価再評価の上 一部納税猶予継続 | ─ | ○ | 平成27年1月 | |
相続税猶予額の計算方式の見直し | 債務等はまず非上場株式から控除 | 債務等はまず非上場株式等以外の財産から控除 | ○ | ─ | 平成27年1月 | |
利子税の負担軽減(5年経過後) | 納税猶予税額支払時には経過期間の延滞金納付 | 5年間分は免除。それ以後は延納の場合利子税 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
延納又は物納への切替(雇用確保要件の欠格の場合) | 不可 | 可能 | ○ | ○ (延納のみ) | 平成27年1月 | |
提出書類の簡略化 | 提出必須 | 一部の提出不要 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
資産保有型会社等の要件 | ||||||
➀常時使用従業員数5人以上除外要件 | 親族を含めて判定 | 経営承継相続人等と生計を一にする親族を除いて判定 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
➁商品の販売・貸付け要件 | 同族関係者への貸付け含む | 同族関係者への貸付け除外 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
資産保有型会社等を通じた上場株式等 | 含めて猶予税額を計算 | 除外して猶予税額を計算 | ○ | ○ | 平成27年1月 | |
総収入金額が0になった場合の打切り | 営業外収益及び特別利益を含む | 営業外収益及び特別利益を除外 | ○ | ○ | 平成27年1月 |
3、平成30年税制改正で、事業承継税制が改正されました。
平成30年改正では、一定の要件のもとで認められている現行事業承継税制(納税猶予制度)について10年間に限って➀入口の要件の緩和➁承継後の負担軽減➂承継パターンの拡大などの大幅な改正を盛り込んだ新制度が創設されます。
なお、平成30年の制度は、現行制度との選択適用になります。
➀入口要件の緩和
イ)納税猶予の対象とされるのは、現行税制では、相続・贈与される非上場株式の3分の2まで、かつ、非上場株式分の税額の80%(贈与は100%)までとされています。
平成30年の改正では、納税猶予の対象が、経営者が保有する非上場株式の全株式・税額の100%まで拡大され、税額の金銭負担がなくなります。
ロ)現行制度では、特例を受けた後継者が会社を承継した後5年間は平均8割の雇用を維持しなければならないこととされています。
平成30年の改正では、雇用確保要件を満たさない場合でも猶予は継続されます。
ただし、一定の書類の提出が必要となります。
➁承継後の負担の軽減
現行では、特例適用後に会社を譲渡・解散した場合には猶予された相続・贈与税額の全額を納付しなければならないこととされています。
今回の改正では、経営環境の変化に対応して、会社を自主解散したり、親族以外の人に会社を譲渡(M&A等)する際には、解散・譲渡時の株価を基に相続税額を再計算して、これまでの全額納付に比べて税負担が減少する仕組みが導入されます。
現行では、特例の適用が受けられるのは、原則として、一人の先代経営者から一人
なお、事業承継税制の適用を受ける場合には、60歳以上の贈与者から、贈与者の
子や孫でない20歳以上の後継者への贈与も相続時精算課税制度の対象となります。
④適用関係
平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与等により取得する
財産に係る贈与税又は相続税について適用されます。
ただし、これらの特例を受けるためには、後継者・経営見通し等に関する承継計画を作
成し、都道府県に提出する等の必要があります。
4. 非上場株式の承継について、節税等として、一般社団法人を設立し、 社団法人に株式等を取得させる手法をとられることは少なくありませんでした。
そこで、一般社団法人を使った相続税の節税方法が、平成30年税制改正により規制されます。
(1) 同族関係者が役員の過半数を占めている特定一般社団法人等については、その同族役員が死亡した場合、同族役員(死亡した役員を含む)の数で等分した当該特定一般社団法人等の財産を、遺贈により死亡した役員から取得したとみなして、当該特定一般社団法人等に対して相続税が課税されます。
(2) 平成30年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用されます。
ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以後の当該一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用する等の要件が設けられます。
監修者
氏名(資格)
小林 幸与(税理士・弁護士)
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