相続税を取り戻す(相続税の還付手続き)
相続税は、所得税等と同様に、払い過ぎていれば、還付(返してもらうこと)ができます。
還付の手続としては「相続税の更正の請求書」を税務署長に提出することになります。
1.相続税還付の具体例
➀遺産未分割であったので、法定相続分で相続税申告をしたが、後日遺産分割が成立した結果、当初の申告内容より相続すべき財産が減ってしまった。
➁遺言等に基づいて遺産相続したので、相続税申告をしたが、後日他の相続人から遺留分減殺請求をされ、遺留分相当額を支払った。
注)遺産分割協議が成立した後に、法的に遺産分割が無効にする理由もなく、遺産分割を単純にやり直すのは相続確定後の贈与として扱われ、相続税の還付は受けられません。
➂相続財産を見直したら遺産である土地の相続税評価額が低額になることがわかった。
例)相続した土地を売却処分しようとした場合、相続税の税務調査があった場合
あるいは二次相続が発生した場合などに、土地の再評価を行って判明する
ことが多いです。
2.還付請求期限について
相続税の還付は、原則として申告期限から5年以内です(他の税法と同様)。
但し、相続税の特例により、一定の事由が生じた場合は、その事由が生じた場合は事由が生じてから4か月以内とする期間が追加されます。
例)遺留分減殺請求の裁判が長引き、遺留分の支払いが裁判上の和解で確定したのは申告期限から6年経過後だったとすると、遺留分の支払をした相続人は裁判上の和解日から4ヶ月以内に還付請求手続をしなければならないのです。
3.還付請求事由について
原則の期間(5年)については計算間違い等の一般的な理由があれば可能です。
特例の期間を使う場合には主に以下の事由が必要です。
➀未分割だった遺産が分割された場合
申告期限までに遺産分割協議が終了しなかった場合は相続税申告では未分割として申告しなければなりません。
分割確定により小規模宅地等の特例などが利用できますので、多くの場合、更正の請求が可能となります。
➁認知、排除等により相続人に異動が生じた場合
相続人が変わり、財産の取得ができなくなった場合等
➂遺留分の減殺請求に基づく返還
遺留分の減殺請求に対して相続財産から支払った場合には取得した相続財産が当初の申告より少なくなったと考えて、更正を行うことができます。
➃遺贈に係る遺言書の発見、遺贈の放棄
相続税申告後に遺言書が見つかった場合でも遺言書は有効ですので、遺言に基づいて申告を行うことになり、取得する遺産が減った相続人は更正の請求をすることができます。
基本的には相続固有に事情で相続人・相続財産に変動が生じた場合には、特別に一般の請求期間が過ぎていても請求ができるとするものです。
4.還付請求手続きについて
相続税の更正の請求書(規定の書式あり)に必要事項を記載して該当(相続税申告書を提出した税務署)の税務署長宛に書類を提出します。
その後、税務側で調査・検討等を行います。(通常、3~6か月位と言われています)
その結果を受けて、税務署側より更正通知書が送付され請求書に記載された振込先口座に振り込まれます。
しかし、更正の請求が拒否される場合もあります。
この場合、通常「更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の通知書」が送付されてきます。
これに対して納得できないときは、異議申立て→審査請求→税務訴訟と訴えを起こすことが可能です。
なお、審査請求が認められる確率は8%程度(審査請求100件中8件位)と公表されています。
また、弁護士に委任した場合の経費(弁護士報酬及び成功報酬)も相当高額となりますので、異議申立てについては、十分検討をされることを推奨します。
5.還付請求の留意点
➀請求理由・根拠を明確にすること。
更正の請求は税務署長にお願いをするもので、税務署長側の裁量が一般の申告より広いと思われています。
したがって、否認されないように請求理由・請求計算根拠を、明確にする必要があります。
一旦、否認されると覆すのが極めて困難となりますので、専門家に事前に相談依頼されることを推奨します。
➁添付が望ましい資料
ⅰオリジナルの申告書の写し(受付印のあるもの)
ⅱ更正の理由を証明するもの
例)裁判所の判決の写し、調停調書、遺留分に関する合意書、土地等の評価証明書
➂更正の請求を行うため、税務調査が行われる可能性があること
一般の申告では原則的に性善説に立ち申告者を信用して受け付けます。
したがって、すべてに調査を行うわけではありません。
しかし、更正の請求については税務署長が調査して更正に対して回答する旨が、条文で明記されていますので、何らかの調査は必ず行われます。
一般に言われる税務調査(申告者を直接問いただす)になるとは限りません。
➃産分割等により相続税負担額が変わった場合、更正により他の相続人の税額が増加する場合があります。
この場合、当然、税務署は相続税額が増加する者に対して修正申告を求めることになります。
相続税の場合は修正申告が原則的に義務となっていない珍しい税目です。
これは国側としてトータルで税額が確保されれば、相続人間での調整には口を出さない(家庭内の問題)と考えるからです。
しかし、総額そのものが変わる様な変更、若しくは誰かが更正の請求を出した場合は、国側にとって収入となる税額が変わってきますので当然に修正申告が求められることになります。
なお、相続税務に精通している弁護士なら、遺産に関して争いがあると絶えず相続
税の修正申告をした場合及びしなかった場合のメリットデメリットを考慮しなが
ら相手方と交渉を行うようにします。
➄相続税申告を依頼した税理士事務所以外の税理士事務所に相続税の還付を依頼することができます。
但し、申告書の控え等は必要になります。
➅相続した土地等を処分した後でも、相続税の還付は可能です。
相続はあくまでも相続開始時の状況で計算しますので、遺産の処分により所有権が無くなっていても可能です。
但し、相続開始当時は土地で評価減ができても、土地の現況が変わってしまっていると証明ができませんので、注意が必要です。
例)相続開始時は農地であったが、その後宅地化した。
⑦相続税の物納で処分したり、延納手続き中でも、相続税の還付請求は可能です。