相続税の申告期限を守らないとどうなるのか?

相続税の申告期限について

まず、相続税には申告期限がございます、その解説とその申告期限が間に合わなかったらどうなるかをご説明いたします。

1、相続税の申告期限は相続開始(死亡の事実)を知った日の翌日から10か月以内です。

(例)今年10月10日に死亡を知った場合は翌年の8月10日が期限になります。

なお、死亡を知るのが遅れたことを証明しない限り、死亡した日に知ったとみなされてしまいますので、注意してください。
申告期限の日が、土曜、日曜、祭日の場合は、翌日が申告期限となります。
申告期限は、相続税申告書の提出(郵送の場合は郵便の消印日で判定)、相続税の納付(金融機関に入金した日で判定)の両方が必要です。

 

申告の延期が認められるケースについて

(1)税務署に申請をして申告期限を延長できる場合

➀次の事由の生じた日後1カ月以内に申告期限が到来するときは、その事由が生じたことを知った日から2カ月の範囲内で延長

ⅰ認知、相続人の廃除、相続の回復、その他の事由により相続人に異動が生じたとき
ⅱ遺留分の減殺請求により返還、弁償額が確定したとき
ⅲ遺贈に係る遺言書が発見されたときや、遺贈の放棄があったとき
ⅳ相続等により取得した財産の権利の帰属に対する訴えの判決があったとき
ⅴ相続開始後に認知された人の価額の支払請求権の規定による請求があったことにより弁済すべき額が確定したとき
ⅵ相続人の失踪宣告があったとき
ⅶすでに生まれたとみなされる胎児が生まれたとき

➁申告期限前1カ月以内に退職手当金等の支給額が確定(非課税の範囲内であるなど、相続税額に影響がない場合を除きます) したときは、その確定を知った日から2カ月の範囲内で延長
➂相続人となる胎児がいるとき(その胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合において、相続または遺贈により財産を取得したすべての人が相続税の申告書を提出する義務がなくなる場合に限ります)は、その胎児が生まれた日から2カ月の範囲内で延長

(2)結果的に申告期限を延長できる場合

➀相続人が死亡した場合、その相続人の相続人が相続開始を知った日から10か月以内に延長されます(事前に申請は不要です).
(注意点)亡くなった人のみ延長されます。

(例)父が今年1月10日に亡くなり、申告期限前の今年5月10日に母が亡くなった場合
父の遺産についての子の相続税申告・納付期限は11月10日ですが、母の夫(父)の遺産についての相続税申告と納付期限、及び子の母についての相続税申告と納付の期限は、翌年11月10日です。

➁相続人が死亡したことを知らなかった場合(事前に申請は不要です)
亡くなっても気が付かなかった根拠を相続税申告書で明示する必要があります。

(例)親族間が不仲疎遠で連絡をして貰えなかった。
海外を転々としていて連絡出来ないでいた。この場合も気が付かなかった相続人のみ延長が認められ、他の相続人の申告期限は変わりません。

 

期限を守らない場合

申告期限は相続税申告書と相続税納税をセットで考えますので,どちらか片方が遅れても加算税等の対象となります。

(1)時効となる場合

税務署から何の連絡もない場合は,何もしなくても時効により申告義務がなくなる場合があります。
原則は申告期限(相続開始を知った日から10ヶ月)から5年間,悪質な場合でも7年間で時効となります。
悪質な場合とは一般に遺産隠蔽等を行い、相続税申告が必要だと知っていながら申告を行わなかった場合です。客観的には区分し難いので7年と考えるのが無難です。
また、申告期限の間に相続人が死亡しても申告義務は次の代まで影響します。

(2)時効にならない場合(以下のパターンが考えられます。)

➀自ら気がついて申告した場合
この場合でも延滞税,無申告加算税が請求されます。

➁税務署の督促等で申告した場合
この場合は自ら申告した場合に比べて無申告加算税が高率となります。

➂税務署の督促等でも申告しない場合
この場合は決定として税務署より通知が行なわれ,無申告加算税がさらに高率となります。

 

間に合わなかった場合の加算額

主に以下の種類の請求が後日税務署より届きます。

(1)延滞税と(2)無申告加算税は、別々に請求されます。
正当な理由があれば免除されますが、よほどのことが無い限り請求されます。

(1)延滞税

利息に相当するもの
理由の有無等は一切関係なく、期限の利益と考えてください。
期限から2か月以内は年2.7%、申告書を提出してから2か月を経過すると年9.0%(平成29年の場合)
※平成27、8年度 2か月以内は年2.8%、2か月を超は年9.1%
※平成26年度 2か月以内は年2.9%、2か月を超は年9.21%
実務上、申告書+納付がかなり遅れても低い方の割合で計算されますが、申告書を出して2か月納付をしないと、そこからは高い割合で計算されてしまいます。

(2)無申告加算税

自主的に申告した場合・・納税総額の5%
(税務署から督促された場合等は原則10%と高率になります)
※相続税申告書を提出さえすれば、この部分はかかりません。ですので、完璧でなくても判る範囲で出すことがお勧めです。

(3)重加算税

故意に事実の隠蔽や仮装を行なったと認められる場合は,無申告加算税や過少申告加算税に代えて,さらに重い加算税が課せられます。

 

申告期限に間に合いそうもない場合の一般的な対応方法

(1)申告を延期できる理由を探す。

以下の理由があるかを探します。(但し滅多に認められません)
◎災害などがある場合、◎相続人に変更が生じた場合、
◎遺留分の減殺請求があった場合、◎遺言が新たに発見された場合等

(2)不足書類を省略して相続税申告

戸籍謄本等の添付資料が、申告期限内に揃えられない場合は、これの添付を省略し、後日提出することを推奨します。

(3)相続税の計算が困難な場合

資料が揃わず計算困難なら、とりあえず相続税を概算計算して、後日、修正申告等を
行うことで、無申告加算税部分は回避できます。

(4)納税資金の準備が困難な場合

相続財産が不動産ばかりの場合、あるいは預貯金の引出し等について相続人間で意見が合わない場合等で、相続税の納税資金の準備が困難の場合は、延納申請を相続税申告に合わせて行うことで一旦納税を回避することができます。
なお延納の担保資料等は後日提供することも可能です。

(5)相続人に申告内容に納得していない人がいる場合

相続税申告書は相続人全員が署名押印して提出する形式となっています。
けれども相続人が個々に署名押印して提出することが認められます。
但し、一部の相続人だけで申告する場合は、相続税申告の際に、その旨を付記しておくことを推奨します。
一部の相続人だけ相続税申告をしたら相続税申告をしていない相続人に対し税務署から照会が来ることがあります。

 

申告期限に間に合わなかった場合の留意事項

(1)配偶者控除、小規模宅地の特例等の取り扱い

相続税申告が、期限後申告となった場合でも原則として認められます。
但し、申告時に遺産が未分割の場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し
修正申告時に適用できるようにする必要があります。
なお、一旦小規模宅地の特例対象を決めてしまうと、後日対象の変更が認められない場合がありますので注意が必要です。

(2)相続税申告と関連する他の申告等

相続があった場合、相続税の申告に準じた他の税務上の手続があります。
相続税申告が間に合わない場合は、これらも間に合っていない、または忘れてしまっているケースが殆どです。
主なものは以下のとおりです。これらも並行して注意が必要です。

➀準確定申告・・・被相続人の確定申告を4か月以内に行う必要があります。亡くなった年の前年分も出してなければ必要になります。
➁確定申告・・・遺産調査や遺産分割が行われていなくても、法定相続分で引き継いだと見なして被相続人の資産から得られる所得を計上する必要があります。(被相続人の持っていたアパートの家賃等)
➂青色申告承認申請書・・・被相続人の事業を引き継ぐ場合4か月以内に提出が必要。提出しませんと青色申告の各種特典が引き継げません。(期限は死亡時期により詳細規定あり)
➃消費税簡易課税制度選択届出書・・・被相続人の事業を引き継ぎ、簡易課税制度を適用する場合に必要です。(原則、対象年度の前日まで・相続の特例あり)